おいしい県立 白メシ学園|箸は剣よりも強し!青年よ茶碗を抱け!

米総合学部

お米のことを徹底的にライススタディする米総合学部。
お米にまつわるウワサや知って得する情報など、幅広い白メシ知識を習得します。

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白メシ学園的米づくり88手間・その1〜その12

1.はじめに

ふと「米」という字について調べると、八十八という漢数字を組み合わせて作られているのは、米ができるまでに88回の手間がかかることがその由来とのこと。本当だろうか。
ならば、1年間をとおして米づくりに取り組んで、その88回の手間を体験してみたい。このようにして唐突にはじまった実習レポートの第1回目です。

2.水を制するものは米づくりを制する

米づくりに欠かせないもの。一番が水の確保です。
実習体験を行う農家さんは、周辺に河川がない山中にあり、雨水や沢水を利用したため池が400以上も点在している、日本有数のため池密集地。希少種のトンボや絶滅危惧種の淡水魚も生息しているのですが、そんなこととはつゆ知らず、地元農家の方々は幼少期に捕まえて遊んでいたとか。

そのため池から田んぼに水を引く重要な作業が、春先の「せぎさらい」です。「せぎ」とは用水路を意味する長野県の方言で、「せぎさらい」はつまり水路掃除のこと。
農閑期の冬に「せぎ」にガッツリ詰まった落ち葉や雪解けの泥などを、稲作がはじまる前に除去するのです。

各せぎを利用する農家さんが、クワや熊手などを持参し、けもの道のような山中の水路を上流から下流へとひたすら泥上げしていく、昔から変わっていないであろう原始的かつローテクな作業。ちなみに、このせぎは明治時代から使っているのだとか。

初めて参加する私のような若輩者も、即戦力となるのが農業です(むしろ期待値高めで受け入れられます)。絶妙に水分を含んだ落ち葉や泥は想像以上に重く、日頃、箸、もとい茶碗より重いものを持っていない、私のようなだらけた学生の心身は、じわりじわりと疲労感に包まれていく……。
しかし、近隣農家共同作業のため、ひとりサボることもできず……。
こうして農家は自然と協調性が養われるのだと実感できる作業です。

さらに作業中、周辺でカエルやタガメを見つけて遊び回る農家の子どもたち(地域の宝)が、ため池に落ちないように目を配る必要もあるため、ある意味、広い視野も求められます。
この際「カエル捕まえて」と言われ、絶対に触りたくないのでうまく捕まえられない鈍くさいフリをしても逃げ切れるわけがありません。結果、心を無にした確保により、懐かしくも虫酸(むしず)が走る感触をひさびさに味わうこととなりました。

(安心してください。写真はタガメです。)

こうして数時間かけて数百メートルのせぎをさらい、手の皮はむけ、数日間は筋肉痛と疲労に苦しみながらも、カエルを捕まえた感触は手に残しつつ、ようやく田んぼに水が引けるのです。

88手間その1:せぎさらい
冬にたまった泥や落ち葉などを除去する水路掃除。心身を鍛える作業でもある。

88手間その2:カエルを捕まえる
農家の子どもたちに頼まれることが多い。何事にもひるまない心が身につく。

この「せぎさらい」のあとの、麦茶のなんとおいしいこと。いろいろな意味で水のありがたみを実感できます。
なお、作業の間、グラついていたクワの柄から刃が抜け落ちてしまいましたが、農家さんがすかさずクサビを打って直してくれました。この業界では、用具のメンテナンスすら自給自足なのです。

88手間その3:農具を直す
自分たちで何とかするD.I.Yスピリッツが養える。

そして、心やさしい子どもたちは最終的にカエルをリリースしていました。私の努力なんて、取るに足らないものであることを痛感した瞬間でした……。

88手間その4:カエルを逃がす
その2でキャッチしたカエルをリリース。生物の多様性を知り、敬愛の心が磨ける。

3. 農家の格言「苗半作」

「せぎさらい」の次に行うのが、米(種籾・たねもみ)を使った苗づくり「すじまき(播種・はしゅ)」。種籾を発芽させて育苗箱に撒き、苗を育てる作業のことを指す、一部地域でのみ使われる業界用語です。
農家では昔から「苗半作(なえはんさく)」といわれるように、苗の出来によって作柄の半分が決まるとされている重要な作業です。

そこで導入するのが、文明の利器。育苗箱に土を入れ、水を撒いて種籾を入れ、土をかぶせるまでを全自動で行ってくれるオート播種機です。
機械化されたことによって先に行った工程「せぎさらい」より格段に楽な作業ですが、昔の人たちはこれを手作業で行っていたのかと思うと、用途は極めて限定的とはいえ、全力で開発者に敬意を表したい気持ちになります。

なお、この作業前にも、前年に刈り取った稲から種籾を採取し、塩水に漬けて見た目では区別できない良質な種籾を選別する「塩水選」など多くの手間があります。
つまりは以下。

88手間その5:種籾の塩水選
塩水の中に種籾を入れ、浮いてくる籾を取り除く作業。種も人も外見ではわからないことを知る。

88手間その6:種籾の消毒
害虫も伝染病も新型感染症も予防が重要です!

88手間その7:種籾の浸種・催芽
種籾を水に漬けて吸水させ、発芽を促進。改めて水の重要性を実感する。

その8:オート播種機の設置および稼働
省力化の素晴らしさを堪能し、農機具の開発者に思いを馳せる。

さらに「すじまき」が完了した育苗箱を1枚ずつ水を張った地面に並べ、保湿・遮光シートをかけて苗を育てていきます。その名も「プール育苗」です。

88手間その8:地面にプールを造成
超重量級シートを地面に広げ、角材と重石で囲いをつくり、再び原始的かつアナログ作業で効率化の限界を知る。

88手間その9:「すじまき」後の育苗箱を並べる
農家さんいわく「並べ方に性格が出る」とのことで、いやおうなく整理整頓の必要性を学ぶ。

88手間その10:育苗箱の上にシートをかける
苗を大切に育てることで、やさしさと思いやりを育む。

88手間その11:苗の緑化
数日から1週間ほどで芽が出たら、シートを外して「緑化」活動を推進。

88手間その12:苗の硬化
苗が伸びて数センチになったら外気に慣れさせ、環境への順応の大切さを知る。

4.所感

こうして1ヵ月ほどかけて苗を育て、いよいよ農家の一大仕事である田植えとなるのです。ここまでで12手間。本当に88手間でお米はできるのだろうか……? 

農家さんが「百姓は誰にも束縛されないのがいいところ。指図されるのは天候だけ」とまぶしい笑顔で語ってくれたのが印象的な実習でした。

次回は田植えのレポートをお届けします!

担当教員より/

働かざる者食うべからず。ということで、気になったことは身をもって体験してみるのはいいことですね。カエルを捕まえる行為も農作業とし、半ば無理やり88手間を調整しようという目論見が透けて見えた上、自由を求める様子には支配からの卒業も懸念させましたが、ともあれ、最終的に収穫された米が研究室に届き、その出来栄えが実食できることを期待しています。

評価:米米祈豊作米米