力士の名前は米の品種名でどこまで代替可能か
1. はじめに
相撲は稲作にまつわる神事が起源とされる。四股(しこ)を踏んだり土俵に塩をまいたりするのも、豊作を祈る儀式の一つらしい。そんな知識を得たのちに、大好きな大相撲の番付表を見ていたら、「力士の名前(=四股名・しこな)」と「米の品種名」の親和性の高さに気がついた。コシヒカリだって、新入幕力士の名だと言われれば100人に3人は騙されそうである。
とすると、番付表に並ぶ四股名は、実在する米の品種名でどこまで代替可能なのか。幕内(大相撲令和4年5月場所に合わせて前頭17枚目まで)を埋めてみることにした。
2. シェアの高い米から四股名にしてみる
国に登録されている品種数は500超あるが、やはり番付上位は有名銘柄で埋めたい。そのため、作付面積上位から一つ一つ、四股名に置き換え可能か検証していくことにした。
○コシヒカリ/粘り強そうな四股名である。漢字にするなら「越志光」だろうか。
×ひとめぼれ/勝ち越す気配がない。
○ヒノヒカリ/輝かしい戦績が想像できる。漢字にするなら「陽ノ光」か。
×あきたこまち/力強さに乏しい。女人禁制と考えるとNG。
×ななつぼし/響きはいいが、相撲は7勝で止まると負け越し。ありそうだが、惜しい。
×はえぬき/送り仮名がないと違和感があるし、「生抜」は字面に力強さが感じられない。
○まっしぐら/漢字にしづらいと思ったら、漢字があった。「驀地」。愚直に前へ出る取り口に人気が出そうだ。
○キヌヒカリ/響きとしては存在しそう。実際に「絹」の四股名は見聞きしたことがないが、「絹」→「鬼怒」にしてしまえば勇壮かつ栃木県出身ぽい。
×きぬむすめ/これも女人禁制ゆえNG。
×ゆめぴりか/笑顔で15戦全敗する姿が目に浮かぶ。
×あさひの夢/語呂が悪いのと、儚いイメージなのでNG。
○こしいぶき/聞いたことがありそうな四股名である。「いぶき」は地元の川か山からとったと言われれば、まったく違和感がない。漢字をあてるなら「越伊吹」か。
×つや姫/女人禁制だし、裸の競技に「艶」はまずい。
×夢つくし/「つくし」に力強さが感じられずNG。
○ふさこがね/漢字にすると「房黄金」か。意味はよくわからないが、響きが四股名っぽいので○。
×あいちのかおり/そういえば「かおり」を冠する力士は聞いたことがない。語呂も悪い。
×天のつぶ/「つぶ」は小さく弱そうでNG。
○あきさかり/「さかり」は勢いがあってよい。「秋盛」だと何だか季節限定のビールっぽいので「安芸盛」としよう。
×彩のかがやき/語呂が悪い。行司と呼出が読みづらいことを考慮してNG。
×きらら397/数字入りの四股名は斬新かもしれないが、まだまだ時代が追いついていない感がある。
3. 番付表の作成
この時点で、相当な文字数のレポートになってしまった。予想に反して力士っぽい米は少ない。
思っていたより代替可能な割合が低く、シェア順などと言っていると前頭17枚目まで埋まらない気がしてきたので、ひたすら「うるち米の産地品種銘柄一覧」を北から拾っていく作業に切り替えることにした。
くまなくチェックした結果、ぎりぎりのラインで、どうにか番付表として違和感のないラインナップが作成できた。すべて漢字にしている。
【番付表】
品種名 | 四股名 | 四股名 | 品種名 | |
コシヒカリ | 越志光 | 横綱 | 陽ノ光 | ヒノヒカリ |
まっしぐら | 驀地 | 大関 | 鬼怒光 | キヌヒカリ |
こしいぶき | 越伊吹 | 関脇 | 房黄金 | ふさこがね |
あきさかり | 安芸盛 | 小結 | 笹錦 | ササニシキ |
かけはし | 桟 | 前頭1 | 千穂実 | ちほみのり |
トヨニシキ | 豊錦 | 前頭2 | 元気丸 | げんきまる |
五百川 | 五百川 | 前頭3 | 福響 | ふくひびき |
キヨニシキ | 清錦 | 前頭4 | 高嶺実 | たかねみのり |
さわのはな | 澤ノ花 | 前頭5 | 福丸 | ふくまる |
一番星 | 一番星 | 前頭6 | 星印 | ほしじるし |
みつひかり | 美津光 | 前頭7 | 花越前 | ハナエチゼン |
みのにしき | 美濃錦 | 前頭8 | 能登光 | 能登ひかり |
ふくのいち | 福ノ壱 | 前頭9 | 杯鳳 | はいほう |
チヨニシキ | 千代錦 | 前頭10 | 峰旭日 | ミネアサヒ |
みどり豊 | 翠豊 | 前頭11 | 金光 | 金光 |
ヤマヒカリ | 邪馬光 | 前頭12 | 大地ノ風 | 大地の風 |
アキヒカリ | 安芸光 | 前頭13 | 峰遥 | みねはるか |
ツクシホマレ | 筑紫誉 | 前頭14 | 朝乃光 | 朝の光 |
レイホウ | 嶺峰 | 前頭15 | 吉備乃華 | 吉備の華 |
黄金錦 | 黄金錦 | 前頭16 | 大瀬戸 | オオセト |
いただき | 頂 | 前頭17 | 星豊 | ホシユタカ |
4. 所感
できあがった番付表を見ると、すべて米の名前なのにまったく違和感がない。やはり四股名と米の品種名は親和性が高かった。米の名が勝ち名乗りとして国技館に響き渡るのを想像すると、我々のような米好きは応援せざるを得ない。加えて、産地の自治体やJAがスポンサーになってくれる可能性もある。ぜひとも各部屋の親方には四股名の候補として検討していただきたい。
(了)
【担当教員より】
日本相撲協会のHPで調査したところ、今回の番付表の前頭17枚目にいる「頂(いただき)」という力士は実在しました。西3段目63枚目です。無条件で応援しましょう。
評価:米米米米米米頂
参考・引用文献
令和2年産 水稲の品種別作付動向について(公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構)
https://www.komenet.jp/pdf/R02sakutuke.pdf令和4年産 水稲うるちもみ及び水稲うるち玄米の産地品種銘柄一覧
https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/sentaku/attach/pdf/index-6.pdf