白メシ学園的米作りの88手間・第2話 ~31手間目まで進むの巻~
1.はじめに
「米」という漢字が八十八という字を組み合わせてつくられているのは、白メシになるまでに88回の手間がかかるから。という由来を検証するために、1年間をとおして米づくりの工程を学ぶ実習レポートの第2回目です。
2.育苗した苗を田んぼへ運搬
前回、育苗箱にまいた種籾は、1ヵ月ほど経ってだいぶ育ちました。いよいよ苗を田んぼへと移すときです。その事前準備が「代掻き(しろかき)」。田んぼの土を乾燥させて肥料を混ぜる「田起こし」を行い、そこに水を張って、トラクターで土をかき混ぜて表面を平らにしていく作業です。藁や雑草なども一緒に混ぜて土に埋め込んで平地にすることで、苗がムラなく生育するようになります。
白メシ学園的88工程
その13:「田起こし」で田植えへの気持ちを奮い起こす
その14:「代掻き」で田んぼの表面も心も整える
続いて、「プール育苗」で育った苗を田んぼに運びます。育苗箱をプールから1枚ずつ持ち上げ、ひたすら軽トラの荷台に積み込んでいく作業。とことん人力です。


この軽トラには最大で60枚が搭載可能。水をたっぷり吸った育苗箱はかなりの重さで、加えて、プールの水により、着ている服がビショビショに……。さらに軍手もびしょ濡れで、ここで必要な装備はゴム手袋だったと気づきました(もちろん、農家さんはゴム手袋を装着していました……)。
ちなみに、こちらの農家では、『コシヒカリ』・『風さやか』・『もち米』の3品種を作っていますが、パッと見、どれがどの苗かわかりません。なんと、農家さんも見た目だけではわからないそうです……! そのため、すじまきの段階できっちりと品種ごとに育苗するプールを分けておく必要があります。つまり、うかつに「こっちの苗のほうが育っている」なんて、別のプールから軽トラに運び入れてはいけないのです。混ぜるな危険。

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その15:苗が育った育苗箱を軽トラに積む
その16:苗を混在させないよう、とにかく農家さんの指示に従う
さらに、育苗を促進させるために苗の上に敷いていたネットをたたむ作業を任命されました。これが地味にキツく、前腕筋にジワジワと疲労が溜まっていきます(なんてったって十数メートルありました……)。次第に握力がなくなっていくのも感じましたが、同時に、中学生時代の部活動だったバレーボール部のネットの片付けを思い出し、ノスタルジックな気持ちにも包まれました……。
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その17:筋肉痛覚悟で、地味にキツいネット片付け作業を乗り越える

その間、農家さんは田植え機を用意。育苗箱とは別の軽トラに積みます。田植え機は装備基準の問題で公道を走れないため、移動の際は軽トラなどに載せて運ばないといけないのです。
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その18:アルミブリッジを軽トラに渡し、田植え機を搭載(アルミブリッジの位置がズレていると車体ごと落下する案外危険な作業)

こうして、いざ、田んぼへ。ようやく田植えのスタートです。

3.農家の一大行事「田植え」
農家にとって大仕事である田植え。小学生の頃はこの時期、数日間の「田植え休み」という連休があり、その分、夏休みが短かったっけな。秋には「稲刈り休み」もありましたよね。って、あれ? 時代錯誤ですか…?
今回も子守と農作業が同時進行です。軽トラから育苗箱をこれまた1枚ずつおろし、箱から苗を外してマット状(マット苗)にしたら、田植え機後部の「苗のせ台」に8枚、サイドの「予備苗のせ台」に4枚を乗せます。さらに、この田植え機はアタッチメントに肥料を入れると、苗植えと同時に肥料も散布できるスグレモノなのです。
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その19:「苗取り板」を育苗箱に入れ、苗を箱から外してマット苗に
その20:田植え機にマット苗および肥料をセット



苗と肥料を乗せられるだけ乗せた田植え機は、田んぼの中をぐんぐんと進みます。後部に乗せた苗はどんどん下へと送り出され、植付爪が回転して苗を1株ずつつかみ、下の土に植え付けていきます。そのうえ、アタッチメントからは適量の肥料がまかれていく……。これを人力でやると果てしない気持ちになりますが、農機具の省力化の素晴らしさたるや!



しかも、田植え機の横についているマーカーという車輪が次に植えるべき場所に線を引いて導いてくれるので、まっすぐに苗を植えることができるのです。相変わらず、農機具の機能性に感嘆せずにはいられません。最近は、GPSを活用した自動運転田植え機も誕生。世の中、著しいスマート農業化に驚きです。
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その21:田植え機の優れた機能に感動
田植え機後部の苗が少なくなってきたら、サイドの「予備苗のせ台」から補充。そして、予備苗も少なくなったら、軽トラから苗を田植え機へと乗せかえ、追加していきます。この繰り返しです。同時に田んぼの水量も微調整します。
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その22:運転手は田植え機を操作し、助っ人は軽トラから苗をおろして田植え機に補充
その23:天候条件も踏まえ、石でせき止めてある田んぼの水を微調整


意外と心もとない石でせき止められています……。
なお、田植え機は、苗を植えた部分は再度通ることができないので(せっかく植えた苗をつぶしてしまいますから)、以下のようにコース取りを考えることが非常に重要です。

この間、手が空いている者は田植え機があぜ道に入りやすいよう、とにかく草刈りです。同時に、あぜ道に生えるセリやフキ、わらびなどの山菜も採ると、夕食の食材になって一石二鳥。
ところで、これまた思い出話で恐縮ですが、私が中学生の頃、ゴールデンウィークを利用して一人あたり3kgのフキを採取し、学校に持っていって販売した売上を生徒会費にするという、全校生徒絶対参加の学校行事がありました。これにより3kgという重量の重さを覚えたのですが(張り切って10kgくらい採ってきて全校朝会で表彰されている生徒もいた)、おかげでいまでもフキを見ると、つい「採らなければいけない」という謎の衝動に駆られます。なお、農業仲間の学校では、フキではなくヨモギだったとのことでした。
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その24:草刈りをしながら食べられる草探し
その25:中学生の頃に採取した山菜の思い出話に花を咲かせる

草刈りに疲れたら、子どもが肩たたきをしてくれます。おじいちゃんの目には薄っすらと涙が浮かんでいるようでした。

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その26:小休止の肩たたきに幼子の成長を感じる
さて、一枚の田んぼを植え終えたら、隣の田んぼへ。あぜ道は傾斜があるので、田植機の前方に一人乗って、重石にして乗り上げる、なかなかアクロバティックな作業が繰り広げられます。

さらに、ぬかるみに田植え機がハマってしまった場合は、ロープをかけてひたすら引っ張ります! いざというときは、どこまでも人力です。

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その27:曲芸的に田植え機を乗りこなしつつ、兎にも角にも田植え作業
その28:ぬかるみにハマったらロープで引くしかない
そして、休憩も大切です。あぜにブルーシートを敷いて小腹を満たし、喉を潤す、のどかでぜいたくな時間。BGMはもちろん、農家愛聴のSBCラジオです!
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その29:農家の定番・SBCラジオを聴きながら休憩するのが長野スタイル

なお、田植え機が入らなかった田んぼの四隅や端っこ、植え残し箇所、苗が流れてしまったところ、ぬかるみが深すぎて田植え機が使えないところなどは、後日、手作業で苗を植え直します。結局、最後は人力。植え残しなど、細かい気配りも必要なのです。

空になって役目を終えた育苗箱も、後日、1枚1枚ひたすら手洗いして乾かします。陰ながらの手作業はどこまでも欠かせません。
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その30:田植え機で植え残した箇所の手植え
その31:育苗箱を洗って乾かし、しまう
このほか、米づくりとは違いますが、この農家さんでは原木でしいたけ栽培もしています。春と秋の年2回収穫ができ、春しいたけがちょうど終わりの時期だったため、最後の収穫をしました。……が、突如、目の前に現れた原木のカエルにびっくり。この写真にカエルが潜んでいるの、わかります?
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その32:不意打ちのカエルの擬態に驚く

4.所感
ほんの数十年前は牛や馬に馬鍬を引かせて行っていた田起こしや田植え。この一連の作業を機械を使わず行っていたと思うと、本当に尊い気持ちになります。農家育ちの祖母の腰が、あれだけ曲がっているのも納得です。
ちなみに、草刈りで採った山菜は無事、食卓に並びました。わらびはアク抜きが重要です。
次回は田んぼの水の管理と、まだまだ続く草刈りレポートをお届けします。

担当教員より/
今回も半ば無理やり一手間に加えているものも散見されますが、2回目にして30手間を超えてくるとは。割と細かい作業もあり、米一粒のありがたみに深みが増しそうです。米粒名号(一粒の米に「南無阿弥陀仏」を書き込む)の修行に挑む人の気持ちもなんとなく理解できる気がします。こうして人は悟りを開いていくのかも知れません。
評価:米米植知悟米