おいしい県立 白メシ学園|箸は剣よりも強し!青年よ茶碗を抱け!

米総合学部

お米のことを徹底的にライススタディする米総合学部。
お米にまつわるウワサや知って得する情報など、幅広い白メシ知識を習得します。

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白メシ学園的米作りの88手間・第6話 ~ 70手間目まで進むの巻~

1.はじめに

「米」という漢字が八十八という字を組み合わせてつくられているのは、白メシになるまでに88回の手間がかかるから。という由来を検証するために、1年間をとおして米づくりの工程を学ぶ実習レポートも、とうとう6回目となりました。いよいよ稲刈り期に突入です。

2.収穫適期の見極めは黄化率

稲春から丹精込めて育ててきた稲。だからこそ、集大成である稲刈りはタイミングの見極めが大切です。収穫日の予測は出穂からの日数や気温で立てられるそうですが、農家さんいわく、収穫適期のポイントは籾全体の8〜9割程度が黄色くなった頃(目視!)。

早く刈りすぎると未熟米や青米が混じって収穫量が減り、収穫が遅れると米の胴割れ(粒の内部に亀裂を生じる現象)が起こって、品質や食味が低下するそうです。

▲この状態はまだ少し早く、稲の黄化率は7割ほど
▲収穫適期。実が大きくなってくると稲全体が頭を垂れ、田んぼ一面が見事な黄金色に!

天候も稲刈りの大きなポイントだそう。雨などで稲が濡れると機械での刈り取りができず、田もぬかるんで作業が困難になるうえ、稲の乾燥に時間がかかり、これまた米の品質が落ちてしまうのだとか。夜露で稲が濡れている朝イチの時間帯も不向きだそうです。ただ刈り取ればいいというものではなく、案外、繊細なのです。

▲快晴が続いた日の朝露が乾いた時間帯が稲刈りのベストタイミング

メシ学園的88工程
その58:収穫適期の判断は、結局、目視
その59:稲刈りに向け、田の水を抜き(落水)、稲刈り機を調整する(こんな作業もあります)

その60:天気予報で快晴を狙う

3.コンバイン収穫か、バインダーによる“はぜ掛け”か。それが問題だ。

稲刈りのおおまかな流れは以下です。

刈り取り → 乾燥 → 脱穀 → 籾摺り → 玄米に

文字にすると簡単ですが、収穫後もさまざまなステップが必要です。おもな工程は以下です。

その1-1:バインダー(稲刈り機)で稲を刈り、結束された稲の束を物干し台のような棒=稲架(はさ・はぜ)に掛け、天日と自然風で約2週間乾燥させる「はぜ掛け(天日干し)」を行う。

バインダーとは、刈り取り・稲を束ねる・稲束を麻紐で結束するという作業が一気にできる小型の画期的な機械。倒れた稲も爪で起こしながら刈り取ることができます。

▲バインダーのバインド(bind)とは束にして「縛る」の意味。
昔の人は鎌で刈り取り、古い藁で1束ずつ結束していたかと思うと、気が遠くなります

そして、稲架とは、杭を交差させた支柱を田んぼに差し込み、竹竿などの長い棒を横木に渡して縛り付けたもの。長野県では2段が一般的です。

ちなみに、稲架は「はさ」が正式な読み方で「挟む」が語源のようですが、長野県では「はぜ」と濁るのが一般的。地域によっては「はざ掛け」「はせ掛け」「はさ掛け」などの呼称もあるようなので、迷ったらなんとなくそれっぽいニュアンスで言っておくとよいでしょう。

結束された稲を一輪車や荷車などで稲架まで運んだら、稲束を半分に割って、下の段から横木に掛けていきます。稲は乾くと縮んで隙間ができて落下してしまうので、ぎゅうぎゅうに押し込んで掛けていくのがポイント。なかなかの重労働です。これをひたすら繰り返します。

▲稲束を差し出す役と掛ける役の二人で分担すると効率的

ちなみに稲束を半分に割る作業を続けていると、思いの外、指先が痛くなるダメージが発生。例のごとく稲のガラス質も露出した肌に突き刺さるので、覚悟(あるいは手甲などの準備)が必要です。

白メシ学園的88工程
その61:杭と長い棒で稲架を作る
その62:バインダーで稲を刈り取る
その63:稲束を稲架まで運び、とにかくギュウギュウに詰めて、はぜ掛けをする
その64:雨が続く場合は、稲を掛け終わったらビニールをかぶせる

その1-2:乾燥した籾を脱穀し、籾摺りして、玄米に。

刈り取った直後の籾の水分は約20~25%ですが、はぜ掛けで15%ほどまで乾燥させたら、ハーベスタ(脱穀機)で脱穀です。穂先から籾を落とし、籾や藁くず(ゴミ)を選別していきます。そして、籾摺機で籾殻を取る籾摺りをしたら、ようやく玄米の完成です。(白米になるには、ここからさらに精米が必要です…。)

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その65:ハーベスタで脱穀をし、籾摺りをしたら、やっと玄米

その2-1:コンバインで、稲刈り・脱穀・籾の選別・藁処理まで。

バインダーを上回る農機具の革命児的存在、それがコンバインです。稲刈り・脱穀・籾の選別・藁処理を同時に行う、稲作業界の黒船。バインダーとハーベスタの“combined”(コンバインド=結合)で、これにより、農林水産省の農業経営統計調査によると、稲刈りと脱穀の労働時間は19分の1に短縮したそうです。

▲刈り刃で刈り取って、機械内で脱穀・選別・藁処理するコンバインを間近に眺める

 

実際に使用を目の当たりにすると「あのはぜ掛けの苦労はなんだったのだ…」と思うほどの性能に感激します。

なお、コンバインは脱穀した籾を専用の袋に詰める袋詰方式と、大きなタンクに溜めるグレンタンク式があります

▲袋詰方式は、袋に満タンに籾が詰まったら手作業で軽トラまで運ぶ必要があり、非常に重労働
▲グレンタンク式は籾の排出作業まで行えます。ますます画期的!
▲長いホースのような排出装置で籾をコンテナに排出
▲たっぷり溜まりました

ただし、グレンタンク式のコンバインは田んぼが接道していないと使えないという欠点も。そしてなにより、どちらのコンバインも非常に高価! メーカー希望小売価格が1千万円を超えるものもあるのだとか…!

白メシ学園的88工程
その66:コンバインの導入により、稲刈りの作業効率が格段にアップ
その67:しかし、高級車並みのコンバインの価格に驚愕…!

ところで、コンバインを導入しても、もち米はうるち米と混ざらないよう別々に作業する必要があります。いずれにせよ、もち米はバインダーによる稲刈りとはぜ掛けを行う必要があったのでした。

白メシ学園的88工程
その68:コンバインの有無に関わらず、もち米の収穫は別作業

その2-2:機械乾燥により乾燥も効率化

さて、コンバインでも乾燥作業は別になります。はぜ掛けは好天が続けば乾燥ムラが少なく高品質に仕上がるため、付加価値も高まる一方で、悪天候が続くと品質低下を招くのに対し、機械乾燥なら素早く乾燥できるのが魅力。乾燥率も調整できます。ここでまたエポックメイキング的存在となるのが、遠赤外線乾燥です。

熱風乾燥機は籾の表面だけを温めて乾燥させるので、調整を誤ると品質低下しやすくなるのですが、均一かつ迅速に熱を入れることができるのが、遠赤外線乾燥機なのです。表面と中心部に温度差が生じないため、米の食味や品質を高く保てます。

デメリットは、やはり価格が高額なこと。さらに、ご覧のとおり、巨大な乾燥機の保管場所も必要です。何事も一長一短があるのです…!(ついでにコンバインも大型機械のため、これまたそれなりの保管場所が必要なのです。)

▲(注)小麦という袋に入っていますが、中身は籾です

お手伝いしている農家さんでは、すぐに出荷する場合は籾を14.5%に乾燥し、しばらく保管しておく場合は、カビない程度に水分を保っておくよう、17%に乾燥しているとのこと。0.5%レベルで微調整が可能なことにもびっくりです。

白メシ学園的88工程
その69:遠赤外線乾燥機でスピーディーかつ高精度で乾燥

4.稲刈り鎌で手刈りもしてみた

ぬかるんだ田や刈り残しなどの稲は、結局、鎌での手刈りも必要です。そこで今回、一部残った稲をひとりで手刈りをしてみました。わずか幅2m、縦5mほどの稲を刈るのに1時間以上もかかりました…。しかも、汗だくに…。稲刈り鎌の刈りやすさと「ザクッザクッ!」という小気味のよい音や手応えの心地よさを楽しんだのも一瞬。稲のガラス質も手首に突き刺さり、機械化の利便性を心底痛感しました…。

▲この右端に残った4〜5列の稲を刈るだけで1時間以上! そりゃ、昔の農家の高齢者は腰が曲がっているものだと納得
▲しかし稲刈り鎌というのは稲刈りに適した、非常によくできた道具だとも実感

白メシ学園的88工程
その70:稲刈り鎌の使い勝手と手刈りの苦労を知る

5.所感

そもそも、昔ながらの稲刈りであれば、鎌での手刈りから、足踏式回転脱穀機での脱穀や唐箕(とうみ)での選別、手作業での籾摺りなど、すべて無料です。そう考えると、人力で頑張るか、機械で作業の効率化を図るかは、懐事情との兼ね合いもおおいに重要のようです。
なお、今回、はぜ掛けを手伝いに来た友人は、思わず「こんなに大変なら米は買ったほうがいいな」と、身も蓋もない発言をしていました…。その表情が真顔だったことが、稲刈りの苦労を物語っていました。

担当教員より/

はぜ掛けは私も経験がありますが、稲刈りの圧倒的な苦労を味わうには抜群の農作業ですよね。それにしても、いよいよ研究室に新米が届く日も近いのでしょうか。ぜひ、はぜ掛けと機械乾燥によるおいしさの違いを体感してみたいものです。期待しています。

評価:米機械之是非米