お米を美味しく炊く炊飯器の取扱説明書を読んで味わう
1.はじめに
美味しい白メシが食べられるのは、お米を作ってくれる皆さんや、お店で売ってくれる人たちのおかげであるのはもちろん、美味しくお米を炊いてくれる炊飯器のおかげでもあることを忘れていないだろうか。私はご飯が炊けるのをまだかまだかと待つ間、プシューだのグツグツだのと音を立てながら頑張って米を炊いてくれている炊飯器のその姿を眺めながら取扱説明書を読むという時間が割と好きだ。炊飯器の取扱説明書は読み物である。私はそう断言したい。炊飯器の各部の名称から始まり美味しく炊くコツと仕組み、オススメのごはんレシピなど内容充実の大絵巻を味わうことで、より白メシを美味しく頂くことが出来るのだ。
2.研究内容
今回のレポートでは、炊飯器を発売するメーカー3社(お社・こ社・め社/いずれも仮名)の取扱説明書の目次に着目。各社のホームページから無作為に炊飯器の取扱説明書を選択して比較する。
お社……炊飯器といえばまず名前が挙がるであろうメーカー。取扱説明書の表紙には、柔らかいタッチのイラストで家族の食卓が描かれている。
こ社……炊飯器はもちろんあらゆる家電を取り扱う総合メーカー。炊飯器のイラストが中央部分に堂々と描かれた表紙の取扱説明書。
め社……メジャーなメーカーではないものの、炊飯器人気ランキングでは常に上位。こ社同様炊飯器のイラストとともに「美味しいごはんが炊けます」のキャッチコピーが併せて記載されている表紙の取扱説明書。
なお、今回文学部らしく、取扱説明書の目次の内容を抜粋し、文庫本の目次っぽくした画像を用いて研究レポートを行う。
3.結果
研究の結果、言葉選びの違いや表現の方法などに各社の特色を見出すことが出来た。
ⅰお社の取扱説明書

お社の取説の特徴、それは同じ言葉を繰り返すリフレイン型である。前半では主役である「ごはん」を4回連続で繰り返している。炊飯器の実際の使い方を説明する中盤では「しかた」が3回繰り返され、最後は「と思ったら」2回で締めくくる。なるほど、同じ言葉を繰り返すことで、読み手にある種のラップ感、高揚感を抱かせるという構成だ。
ⅱこ社の取扱説明書

こ社の取扱説明書において最も注目すべき点は『「麦ごはん」を炊く』ではなかろうか。麦ごはんの特別扱いである。わざわざ括弧で括っているところからも、プレミアム感を演出している。『いろいろなご飯を炊く』の枠には閉じ込めず、独立した章として麦ごはんを取り扱うあたりも一目置いているんだという宣言であろう。
ⅲめ社の取扱説明書

前出の2社と明らかに異なる独創的な取扱説明書である。文学性すら感じ取ることが出来る目次。シンプルで無駄を削ぎ落とした文体は、どこか詩的ですらある。「保温する」「予約する」「お手入れする」のする3連発でグッと緊張感を高めてからの「すし」である。緊張と緩和の目次。すしを独立させるあたりもユニークだ。
ⅳ故障かな?
お・こ・め各社の取扱説明書の目次を比較することで「故障かな?」の表現が少しずつ異なっていることに気付いた。
お社……「故障かな?と思ったら」
こ社……「故障かなと思ったとき」
め社……「故障かな?」
め社は完全に誰かの台詞である。
そこでお・こ・め社も含めた複数のメーカーの取扱説明書を読み込み、「故障かな?」の文体を比較した結果を目次化した。

実にさまざまな「故障かな?」文体があることがわかった。「こんなときは」は文豪の作品タイトルでありそうな雰囲気すらある。
4.所感
取扱説明書を読まずに機械を使う人が増えているという話も聞く。取扱説明書は読み物であり、ある意味文学でもある。読めば読むほど発見と気づきある。「あ、このボタン2回押せばキャンセルになるんだ」などまだまだ知らない機能が家の炊飯器には隠されているかもしれない。美味しいお米をきちんと美味しく食べることこそ、お米に対する愛であろう。
(了)
【担当教員より】
炊飯器の取扱説明書をじっくり読んだことがなかったので、帰宅して読んでみます。炊飯器によってごはんの美味しさって変わりますよね。炊飯器のことを考えていたら、お腹がジャーと鳴りました。炊飯ジャーのジャーとお腹の音を掛けたのです。ちなみに炊飯器と炊飯ジャーはもともと違ったらしいですよ。保温機能がついているのを炊飯ジャーと呼んでいたみたいです。
評価:米米お米こ米め
参考・引用文献