おいしい県立 白メシ学園|箸は剣よりも強し!青年よ茶碗を抱け!

文学部

文学作品における白メシの表現や、米にまつわる言葉の由来など、
お米と言葉・文学の関連性について学びます。

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昔話『おむすびころりん』における「ころりん」表現について

1.はじめに:民話がルーツの物語

『地蔵浄土』という民話がルーツと言われている昔話『おむすびころりん』。おじいさんがおむすびをうっかり穴へ落としてしまい、穴を覗くとねずみが♪おむすびころりん、すっとんとんと歌っているというお話である。
『おむすびころりん』は、これまで何冊もの絵本やアニメーションが制作されている。図書館やインターネットで検索すると、そのバリエーションの豊富さに驚くことだろう。

2.『おむすびころりん』の基本構造

『おむすびころりん』の構成を改めて確認する。

ⅰ.起

(1)おじいさんがおむすびを持って、山へと向かう。
(2)切り株に腰掛けておむすびを食べようとすると、うっかりおむすびを落としてしまう。
(3)おむすびは山の斜面を転がって、穴へ落ちる。

ⅱ.承

(4)穴を覗くと、ねずみたちが歌っている。
(5)おじいさん自身も穴へ落ちてしまう。
(6)おむすびをくれた御礼に、ねずみたちは小さなつづらと大きなつづらのいずれかをあげると言う。
(7)欲のないおじいさんは、小さなつづらを持って帰る。
(8)家に帰ってつづらを開けると、財宝が入っている。

ⅲ.転

(9)その話を聞いた強欲なおじいさんは、わざとおむすびを穴へ落とす。
(10)ねずみたちにつづらを出せと脅迫する強欲なおじいさんは、猫の鳴き真似をして驚かそうとする。
(11)驚いたねずみたちは、強欲なおじいさんに噛み付く。

ⅳ.結

(12)それに懲りた強欲なおじいさんは、それ以降あまり欲をかかなくなった。

良いおじいさんと悪いおじいさんによる対立構造や、人間と動物とのファンタジックなふれあいという昔話の王道をベースに『おむすびをうっかり落とす』というアクシデントから始まる物語は、さながらハリウッド映画のそれにも相通じるところがある。

3.ころりん表現の調査

おじいさんがおむすびを落とした際に、転がるおむすびをどのような言葉で表しているかを調査し、おじいさんのとっさの一言と併せて表にまとめた。

(a)ころりんの言い方
ころころ
ころころころりん
ころんころん
ころころころ
ころころ……ころころ……
ころりん
コロコロコロコロ
ころころころり
rolling on and on…
b)おじいさんのリアクション
こりゃこりゃ、しまった
ま、ま、待ってくれ
しまった!
ありゃ!おいおい!
あぁ、もったいないことをした
いけない、落としてしまった
まてまてまて
まて、まてぇ~ぃ!
大事なおむすび、待て待て~
こりゃしまった!
Oops!

「ころりん」表現については「ころころ」を基本形とする変化のバリエーションであるのに対し、おじいさんのリアクションは転がるおむすびに向かって問いかけるパターンや、自分の愚かさに対する苛立ちなど、実に豊富な言い回しで表現されていた。

4.所感

落ちたおむすびが転がるという描写に、なぜ我々はここまでドキドキできるのだろうか。『おむすびころりん』を語る上で、ねずみたちとの交流に心が温まることも、強欲なおじいさんの悪態を通じて善と悪について改めて考え直すきっかけを得ることも大切ではあるが、結局のところ『おむすびが転がり落ちる』という動的描写が強く印象に残るコンテンツなのだと改めて実感した。

しかし、家を出る時におばあさんが作ってくれたおむすびを見て「なんて美味そうなおむすびなんじゃ」とまで言ったおじいさんが、なぜおむすびを落としてしまったのだろう。おばあさんからの愛情をしっかり握っていなくてはダメではないかおじいさん。そんな気持ちを抱くと同時に、『おむすびころりん』という物語においておむすびを落とすという行為がすべてのトリガーであり、物語序盤における最大の見せ場でもある。そう考えると、おむすびを落としてくれてありがとうおじいさんという感謝の気持すら湧いてくる。

5.まとめ

レポートを作成するにあたりさまざまな文献を読み込めば読み込むほど、ころりん表現よりも気になる設定や行動に気がついたのでその一部を例示する。

  • なぜおじいさん自身も穴に落ちてしまったのか。
  • なぜ強欲なおじいさんは猫の鳴き真似などしてしまったのか。
  • おむすびをねずみにあげた訳でもないのに、なぜねずみはもらった気になっているのか。
  • ねずみに齧られた強欲なおじいさんは、それ以降“あまり”欲をかかなくなったというそのあやふやな結末は何を意味するのか。

このように、折々で見る側に考えさせる余白や疑問を提示してくる『おむすびころりん』は、日本が誇るエンターテインメントコンテンツであり、その影の主役とも言えるおむすびの魅力に再び気付かされた。今回の調査によって、『おむすびころりん』における表現手法の幅広さを感じ取り、ころりんムーブメントのきっかけとなればと切に願う。

(了)

【担当教員より】

ころりんムーブメント?
ひとつの物語を構成から考察、調査まで行った文学部らしいレポートでした。『おむすびころりん』には多くの類似作品もあり、作品によって転がるものが違います。『地蔵浄土』ではおむすびではなく団子が転がり、『豆つぶころころ』では豆が転がる様子が描かれていますので、研究テーマには事欠かない題材かもしれません。

評価:米米ころりん米米

参考・引用文献

おむすびころりん 童話 動く絵本/日本の昔話

【絵本】おむすびころりん【読み聞かせ】日本昔ばなし 童話

おむすびころりん(日本語版)アニメ日本の昔ばなし/日本語学習/OMUSUBI KORORIN – THE ROLLING RICE BALL (JAPANESE)

よみきかせ日本昔話 「おむすびころりん」

【絵本読み聞かせ英語朗読:字幕付き】おむすびころりん/The Rolling Rice Ball 【Japanese Fairy Tales in English】

おむすびころりん | おはなしのくに | NHK for School

おむすびころりん – 昔話童話童謡の王国

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