国語辞典の『飯』の例文を小さな文学として味わう。
1.はじめに
「飯」という字は、「めし」「はん」と読みますが、「い」「いい」「まま」という読み方もあります。一文字でこここまでの読み方を備えた飯に対して憧れに近い感情を抱きながら、実はまだ別の読み方があるんじゃないかと思って国語辞典で調べていると、そこに文学的要素を見つけました。
2.調査内容
国語辞典には言葉の意味と併せて、その言葉の用法を示した例文が掲載されている場合があることに気づきました。
今回のレポートでは、さまざまな国語辞典で「めし」を調べ、そこに書かれた例文から小さな文学を味わっていこうと思います。
3.調査結果
国語辞典の「飯」における例文は以下2つに分類できます。
(ⅰ)願望/飯指定型…飯を食べたいという願いと、具体的に何飯を食べたいのかを指定してくる構成です。
(ⅱ)三度の飯型…「三度の飯」というフレーズを使った構成です。
具体的な例文を一部引用・抜粋して考察し、個人的解釈を記載していきます。
(ⅰ)願望/飯指定型
「飯にしてくれ」(岩波書店,広辞苑第五版p.2620)
かなり空腹な雰囲気を感じます。「もういい加減、飯にしよう」という諦めにも似た感情がにじみ出た例文です。
「飯にしよう」(小学館新選国語辞典第九版p.1286)
「してくれ」よりは前向きさを感じる例文です。「さぁみんなで飯でも食べようか」という問いかけに近い印象です。
「もう飯にしよう」(研究社,ローマ字で引く国語新辞典p.854)
何か作業が長引き、時計を見たら昼の時間が少し過ぎていたのでしょう。そんな時に出る一言「もう飯にしよう」が例文として記載されていました。
「飯にする」「朝飯」(岩波国語辞典第六版p.1185)
この類型の見本のような例文です。「飯にする」という願望と「朝飯」という飯の指定。シーンは完全に朝です。「飯にする。朝飯」と少し不機嫌そう。何かあったのでしょうか。
「飯にしよう。朝飯。」(ドラえもんはじめての国語辞典p.663)
こちらも朝のシチュエーションですが、「しよう」という言い回しがポジティブな朝を連想させます。
「飯にする・昼飯」(三省堂現代新国語辞典第六版p.1378)
こちらは昼飯を指定してきました。つっけんどんに「飯にする。昼飯」と言い放つ感じは午後の波乱を予感させます。
「朝飯」(新潮現代国語辞典第二版p.1528)
昔の男性のように、多くは語らないスタイルなのでしょうか。朝飯。一言です。朝飯をどうしたいのか言わないとわからないと思います。
「飯の時間」(学研国語大辞典第二版p.1924)
何飯かはわかりませんが、今まさにこのタイミングが何かしらの飯の時間なのだという確固たる事実だけを伝えている様子が目に浮かびます。
(ⅱ)三度の飯型
「三度の飯」「朝飯」(大辞泉下巻第二版p.3571)
少し混乱しているのかもしれません。三度の飯と言ったあとに、朝飯とつぶやく。三度の飯の中でも朝飯に対する想いが深いのかもしれません。
「飯にする[男]・三度の飯」(三省堂国語辞典第七版p.1523)
珍しい配役の指定があるタイプです。男が「飯にする」というところから、三度の飯の物語は始まるのでしょう。
「三度の飯より好きだ」(三省堂新明解国語辞典第四版p.1271)
JPOPのタイトルでしょうか。三度の飯より君を愛しているといわんばかりの例文です。
「三度の飯より好きなこと」(小学館日本語新辞典p.1656)
こちらは恋愛小説のタイトルのような例文。「三度の飯より好きな100のこと」という映画もありそうです。
「三度の飯より野球が好きだ」(三省堂大辞林第四版)
野球が好きだと指定してくるスタイルの例文からは、本当に野球が好きなんだなぁという強い意志を読み取ることができます。
4.所感
10冊以上の国語辞典を調査し、想像以上にバラエティ豊富な例文を目にすることが出来ました。辞書だと思って読むのではなく、小さな文学作品だと思うことで新たな飯の楽しみ方に気付くことができました。
(了)
【担当教員より】
図書館に入り浸って何をしているのかなと思ったらこれでしたか。次は日本語辞典ではなく、英和・独和・仏和辞典なども視野に入れて研究を進めてみてください。
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