世界トップクラスの米農家さんに聞いた「米作りの精神論」
1.はじめに
私のクラスの実験田で育った米がイマイチだ。味も香りも、もちもち感も、自分の中には理想がある。しかし、その理想像には遠い。田んぼは1年に1回しか答えが出せない。そうこうしている間に卒業などあっという間である。
担当教官は、科学的でもっともなアドバイスをしてくる。その指導内容に異論はない。異論はないが、私たちは今、青春を生きている。ほしいのは正論ではない。精神論である。熱く語りたいのである。「米作りは水、土、太陽、そしてハートじゃー!」とか言われたいのである。
私は世界最大級の米の品評会「米・食味分析鑑定コンクール」で平成25・26年と2年連続最高賞に輝いた米農家・斉藤寛紀さんのもとを尋ねた。2年連続世界一は、それだけで熱い。

2.全方位的に満点より「ここでしか作れない米を」
私:理想の米に近づけず、何かヒントがないかと伺いました。特に精神面で。
斉藤さん:精神面で…。別に僕は精神論者ではないけど(笑)
私:いや!知識や技術だけでは日本一にはなれないはず!その裏にあるハートが知りたいんです。理想とか精神とか根性が語りたいんです。
斉藤さん:うーん。理想を持つことは大事だし、僕も持っているけどね。ただ、米はその土地の土や気候と一緒に作るものだから。
私:あきらめろと!?
斉藤さん:あきらめるのとはちょっと違うね。特長を楽しもう、というべきかな。ここ(長野県信濃町)ってすごく寒いんですよ。

私:雪もかなり積もりますよね。
斉藤さん:そう。だから、ここの米はどうしたって硬い。
私:寒いと硬くなるんですか。
斉藤さん:そう。水が冷たいからね。昔はバランスのいい、全方位的に満点が取れるお米を目指していたんだけど、だんだん理想の姿が見えてきたんだよ。
私:どんな姿ですか?
斉藤さん:説明するとものすごく長くなっちゃうけど、簡単に言えば、ここでしか作れない、ここだから作れる、そんなお米。深みのある甘さがあって、硬いお米。
私:ここでしか作れない、ここだから作れる。いいフレーズだ。いつか使いたいです。
斉藤さん:20年以上、堆肥の配合だとか、土の起こし方だとか、毎年変えながらやってきてるけど、究極なんてないと思う。理想なんてずっと届く気がしないけど、まだまだできることはある。飽きないよ。

3.「品評会は人生に大事なことを教えてくれる」

斉藤さん:それより、米のコンクールや品評会に行ったことはある?
私:いえ、ないです。まだ出品できるレベルではないので。
斉藤さん:出さなくても行くべきだよ。試食できる品評会は多いからさ。若いうちは先入観を捨てて、いろんなお米を食べてみたほうがいい。人生と一緒。
私:人生?
斉藤さん:人間って、本当に試す前に決めつけちゃうことが結構あるじゃない。「こうじゃなきゃダメ」って決めつけるせいで視野が狭くなっていく。
私:なるほど。10代でもそういうところあるんだから、歳をとるともっと狭くなりそうです。
斉藤さん:今、あなたが好きだと思っているお米も、好みじゃないと思っているお米も、先入観を捨てて食べてみることが大事だと思うよ。
私:確かに、食わず嫌いになっている銘柄はいくつかあります。
斉藤さん:品評会で大きいのは、同じ条件で炊かれた何種類ものお米が味見できるところ。これは貴重な経験だよ。
私:そうですね。確かに、同じ炊き方でたくさんの銘柄を比べる機会はそうそうないです。
斉藤さん:実はここ長野県の小諸市で12月に国内最大級の品評会「第24回米・食味分析鑑定コンクール」が開かれる。近いなら行ってみたらいい。数量限定だけど、ノミネートされているお米の試食もできるよ!僕も出品してる。
私:行きます! 先入観捨てて、食べてきます!
斉藤さん:精神論、語れなくてごめんね。
私:いや、十分ハートに刺さる言葉をいただきました!
というわけで、12月2日(金)3日(土)の2日間にわたって開かれるコンクールを取材することにしました。斉藤さんも出品しているというこのコンクール、今年は誰のどんな銘柄が日本一に輝くのか。 【続く】
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第24回米・食味分析鑑定コンクール:国際大会
日時:2022年12月2日(金)〜3日(土)
会場:小諸市文化センター
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(了)
【担当教官より】
「正論より精神論」。きょうびなかなか聞かないセリフで清々しかったです。そうね、青春には熱が必要だね。
評評価:米米米米熱米米米米
参考
斉藤さんが営む落影農場のHP
http://ochikage.com/product.html第24回米・食味分析鑑定コンクール:国際大会in小諸
https://www.syokumikanteisi.gr.jp/kon-24/top.html