すき家と加賀百万石はどちらが大きいか〜米の扱い量における規模比較〜
1. 研究の動機
石川県出身の級友が何かといえば「加賀百万石」をひけらかしてくる。もちろん江戸時代最大の藩ということは知っているが、正直、どれほどすごい規模なのかピンとこない。なので、現代の何かしらと比較してみることにした。規模の尺度はさまざまだが、当校の尺度のファーストチョイスは、やはり「米の扱い量=経米規模(けいまいきぼ)」であろう。
比較相手には、経米規模が大きいと予想される牛丼界の雄「すき家」を選んだ。国内の飲食業界でナンバーワンの売上を誇る「ゼンショーホールディングス」の主力部門である。経米規模ですき家を上回っていたとすれば、そのときは加賀百万石にひれ伏すしかない。
2. 加賀百万石の経米規模
加賀前田藩の経米規模の計算は簡単である。1石は約180リットル。「石」は重さではなく、体積の単位である。すき家と単位をそろえるために、重さに換算すると140kg〜150kgとなる。収穫からの期間や品種などでバラつきがあるのだ。仮に間を取って145kgとしよう。※1
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100万石×145kg =145,000,000kg(14.5万t)
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これだけの米が生産され、分配されていた。江戸時代後期、藩によっては実際の生産量が石高と乖離していたとされるが、ここでは公表されている石高をベースとし、加賀百万石の経米規模は14.5万tとする。が、正直いまだピンとこない。
3. すき家の経米規模
一方のすき家だ。手始めに、すき家広報室に「米の使用量」を問い合わせてみたが、「非公開です」との丁寧なお返事をいただいた。ならばと、金額ベースで推計すべく「客単価」も問い合わせてみたが、こちらも「非公開」とのこと。
以上のように非公開の数値が多いため、売上高以外は予想値をもとにして、以下の計算式で米の扱い高=経米規模を推計する。
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売上高÷客単価×(並盛りご飯量×並盛り率+大盛りご飯量×大盛り率)÷炊飯時増加係数
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(以下、計算に興味のない方は結論まで読み飛ばしていただきたい)
① 売上高
すき家単体では1,592億円である(2021年3月期、ゼンショーホールディングスの有価証券報告書より)。
② 客単価
主力の「牛丼並盛り」は400円、同大盛り550円、おしんこセット(漬物とみそ汁)が150円。肌感覚でしかないが、平均単価は500〜600円とみれば遠からずだろう。仮に間を取って550円とする。なお、全メニューの単価を単純に平均すると508円になるという報告もある(※2)。
③ 1と2をもとに「客数」を推計する
売上÷客単価=客数となる。言い換えれば、「何食」提供したかの数値だ。なお、少々強引だが、ご飯もの以外を食べる人はあまりいない前提としている。
1,592億円÷550円=289,456,364食(2億8,945万食)
④ 1杯あたりのご飯の量
これも非公開であるが、多くのサイトで「並盛りのご飯の量は250〜260g、大盛りは350g〜360g」という記述が見られる。それぞれ間を取って並盛り255gと大盛り355gとし、大盛りにする人の割合が30%だとすれば、平均は285gとなる。
[255g×70%]+[355g×30%]=285g
⑤ 客数(=食数)に「1杯あたりのご飯量」をかける
2億8,945万食×285g=8,249万kg(8.2万t)
推計ではあるが、すき家の年間「ご飯消費量」は、8.2万t前後とみられる。
⑥ 炊飯時増加係数で割る
それなりに加賀百万石との差がついたが、実はもう一つ作業がある。すき家の数値は「ご飯の量」であり、加賀百万石は「米の量」である。米は炊くと2.1〜2.3倍になる(※2)。間を取って2.2倍とする。なお、「炊飯時増加係数」は筆者の造語である。
8,249万kg÷2.2=3,749万kg(3.7万t)
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この3.7万tが、すき家の米の推計扱い高、経米規模だ。
4. 結論と検証
「客単価」「ご飯量」「大盛り率」などの数値において、筆者の予想に多少のズレがあったとしても、勝敗は明らかであろう。
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加賀百万石 約14.5万t
すき家 約3.7万t(推計)
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検証のために、推計のもととなる数字を変えてみる。顧客単価が400円だったと仮定すると4.0億食で10.5万t。ただ並盛りと同じ金額ということは低価格の限界値であり現実的ではない。
一方で、顧客の50%が大盛りを頼んだとすると単価が上がって、客数は2.2〜2.3億食に減り、経米規模は7.9万tとなる。いずれにせよ加賀百万石とは開きがある。
以上により、不確定要素のバッファ分を検討しても、加賀百万石のほうが経米規模が大きいというのが結論である。あの「すき家」の4倍近い米を扱っていたのだから、石川県出身の級友は引き続きふんぞり返り百万石をひけらかしてよいだろう。
(了)
【担当教員より】
今回の推計をもとにすると、すき家の石高は約25.8万石となり、明治維新に大きな影響を及ぼした土佐藩24万石や、大老・井伊直弼を輩出した彦根藩23万石を上回ることになりますね。いずれにせよ、何でも米で換算することは良いことです。ライス・チャレンジでした。
評価: 米米米牛牛玉葱